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*-----  リキッドのアイライナー  -----*

遠い親戚の告別式があり、他県へ出かけた。
久し振りに逢う親類もいて年月を感じた。

私がまだ小学生の頃、遠縁のお姉さんが我が家に居候していた事がある。
ある日突然に一緒に暮らすようになり、兄たちしかいない私は姉という存在を持つ友達が羨ましくて、だから彼女の出現は夢のような出来事だった。一緒にいる限りはまとわりついて離れなかった。時々憂いを含んだ横顔を見せる以外、お姉さんはとても優しかった。当時のメイクの流行だったのだろう、今まで見た事もないような黒いリキッドのアイライナーがとても眩しかった。

お姉さんは何日くらい我が家にいたのかまるで覚えがないが、ある日私が学校から帰ると突然いなくなっていた。母から帰ってしまったと聞かされて、大急ぎでお姉さんの部屋へ行き、真っ先にあのリキッドのアイライナーがなくなっているのを確認した。そして私は大泣きをした。

子どもの頃の記憶は途切れ途切れで、その後の私がどう立ち直ったのか憶えていないが、
大人になってから兄に聞くと、男と駆け落ちをして親に引き戻されて我が家に預けられたという話だった。

恋、駆け落ち、別れ…。
それからいくつかの恋を経験して、想い出すのはあの憂いを秘めた寂しげな横顔で、その後のお姉さんがどうしているのか、どうしてもあの時の延長での想像しかつかなかった。


昨日、もしかしたら?と期待をしていたその人に逢った。兄に言われなければわからなかった。
私が長い間憧れていた、恋に苦しむ綺麗なお姉さんはすっかり歳を取り、そのままその土地で暮らしていたらしい。都会的な想像はひと目で打ち破られて、彼女があの日の恋をどのようにして葬ったのか、ただその土地で埋もれて暮らして来たという事だけが、すっかり日に焼けた肌や深い皺に物語られていた。

彼女が去ってから私が大泣きをしたと聞いたと話していたから、きっと私を見てあの日の恋も想い出したに違いないが、それは一体どんな風に彼女の心のかすめただろう。ゆうに30年以上の年月が過ぎていた。

遥か昔々の恋人の事はもう忘れ去っているのだろうか。
再び濃いアイラインを引くメイクが流行っているが、昨日の彼女はすっぴんだった。

憧れて、ようやく逢う事の出来たその人だった。
密かに紡いでいた物語があった。
逢わないでいたら、それはもっと続いていただろう。

人は一度巡り合った人との別れはないのだそうだ。
二度と逢う事がなくなっても、記憶の中からいなくなる事はないからだとか。
だから、一度別れた恋人とは、二度と逢わない方が、心の中の彩りは潤い続けていけるのだろう。

  by lily_extreme | 2008-06-28 19:21 | L'Air du Tumps

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